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横浜地方裁判所 昭和53年(ワ)52号 判決 1979年4月19日

原告

武井明

ほか一名

被告

中里辰男

主文

一  被告は、原告武井明に対し金二六五万三七七四円と内金二二九万三七七四円につき昭和五三年一月三一日から支払ずみまで年五分の割合による金員、原告武井ふき子に対し金一六四万九八三七円とこれに対する昭和五三年一月三一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の、その余を原告らの各負担とする。

四  この判決は、原告らの勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告武井明に対し金七四八万三九四三円及び内金六二九万六九七〇円に対する昭和五三年一月三一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告武井ふき子に対し金五五七万二七六〇円及びこれに対する昭和五三年一月三一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

訴外武井英貴(以下「英貴」という。)は、次の交通事故(以下「本件事故」という。)によつて死亡した。

(一) 日時 昭和五二年五月二八日午後零時二八分頃

(二) 場所 神奈川県道鶴見溝口線上の川崎市中原区井田中ノ町三八三番地先交差点(以下、「本件交差点」という。)

(三) 加害車 普通貨物自動車(横浜四四ゆ六八七二号)

運転車 被告

(四) 被害車 原動機付自転車(中原区あ四七七五号)

運転者 英貴

(五) 態様 県道鶴見溝口線を千年方面から木月四丁目方面へ向けて走行していた加害車が道路中央部より本件交差点を左折進行中、左後方より直進してきた被害車に衝突した。

(六) 事故の結果 英貴は昭和五二年五月二九日午前零時二〇分頃、総合高津中央病院において、本件事故による脳挫傷兼頭蓋内出血のため死亡した。

2  責任原因

(一) 被告は、加害車を保有し、自己のために運行の用に供していた。

(二) 従つて、被告は自動車損害賠償保障法三条本文の損害賠償責任がある。

3  損害

(一) 英貴の逸失利益 金一六一五万二八二〇円

(1) 英貴は、本件事故による死亡当時満一七歳であり、年間収入(含賞与)は金一七六万九六〇〇円であつたので、これを基礎として満一七歳から英貴の稼働可能年数である六七歳までの五〇年間の得べかりし利益を計算し、年別のライプニツツ式計算方法により年五分の中間利息を控除し、更に、生活費として五割を控除すると、英貴の逸失利益の現価は金一六一五万二八二〇円となる。

(2) 相続

英貴は原告らの長男であるが、同人の右損害賠償請求権につき、原告武井明(以下「原告明」という。)、同武井ふき子(以下「原告ふき子」という。)は英貴の親として、法定相続分に応じ、各金八〇七万六四一〇円をそれぞれ相続した。

(二) 原告明の損害 金七二万四二一〇円

(1) 入院治療関係費用 金二二万四二一〇円

(イ) 入院治療費 金二一万八〇一〇円

(ロ) 入院付添費 金五〇〇〇円

(一日当り金二五〇〇円として二日分)

(ハ) 入院雑費 金一二〇〇円

(一日当り金六〇〇円として二日分)

(2) 葬儀費用 金五〇万円

(三) 慰謝料 各金五〇〇万円

英貴の年齢、同人と原告らとの身分関係、本件事故の態様、その他諸般の事情を考慮すると、原告らの慰謝料は各金五〇〇万円が相当である。

4  損害の填補 各金七五〇万三六五〇円

原告らは、自動車損害賠償責任保険から、合計金一五〇〇万七三〇〇円の支払を受けたので、法定相続分に応じ、各金七五〇万三六五〇円を原告らの前記各損害賠償請求権にそれぞれ充当した。

5  弁護士費用 金一一八万六九七三円

被告は本件事故による損害賠償金を任意に支払わないので、原告らは本件訴訟を弁護士である原告ら訴訟代理人に委任し、手数料及び報酬として金一一八万六九七三円を、原告明において支払うことを約した。

6  結論

よつて、被告は、原告明に対し前記3の(一)、(二)、(三)及び5の合計額から同4を差引いた金七四八万三九四三円及びそのうち弁護士費用を除いた金六二九万六九七〇円に対する訴状送達の翌日である昭和五三年一月三一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、原告ふき子に対し前記3の(一)、(三)の合計額から同4を差引いた金五五七万二七六〇円及びこれに対する前同様の遅延損害金を支払うことを求める。

二  請求原因に対する認否(被告)

1  請求原因1項の(一)ないし(四)、(六)の事実は認めるが(五)の事実は否認する。

2  同2項の(一)の事実は認める。

3  同3項の(一)の(2)の事実のうち原告らと英貴との身分関係は認めるが、同項の(二)の(1)(イ)の事実は否認する。

同項のその余の事実は知らない。

4  同4項の事実は認める。

5  同5項のうち、訴訟代理人委任の事実は認めるが、その余の事実は知らない。

三  抗弁

1  一部弁済

被告は、入院治療費金二一万三〇一〇円を、また香典名目で金五万円をそれぞれ支払つた。

2  過失相殺

本件事故は、左折の合図をしながら本件交差点を左折進行中の加害車に、左後方より高速度で進行してきた被害車が衝突してきたもので、事故原因は専ら被害車側にある。なお、英貴は無免許のうえヘルメツトも着用せず、改造バイクを運転していたもので、その過失は極めて大である。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1項の事実は認める。

2  同2項の事実は争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因1項の(一)ないし(四)、(六)の事実は、当事者間に争いがなく、本件事故の態様については、いずれも成立に争いのない甲第九号証の一ないし三、第一〇号証、第一五号証及び被告本人尋問の結果の一部を総合するとその詳細は後記のとおりであるが、請求原因1項の(五)のとおりであると認定することができる。右認定に反する証拠はない。

二  被告の責任

請求原因2項(一)の事実は当事者間に争いがない。従つて、被告は自動車損害賠償保障法第三条本文により、本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

三  損害

1  英貴の逸失利益 金一六一五万二八二〇円

(一)(1)  原本の存在については当事者間に争いがなく、その成立については弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三号証、いずれも成立に争いのない甲第五号証、第一一号証の二、第一二、第一六号証によれば、英貴は本件事故当時、一七歳の健康な男子で、川崎市中原区井田中ノ町三六九番地一の井田オイル商会に勤務し、死亡前三ケ月間の月額平均給与金一一万〇六〇〇円の所得があつたことが認められる。これに加え年間四ケ月分の賞与が支給されることが推認できるので英貴の年間所得は金一七六万九六〇〇円であると認めるのを相当とする。

また、前認定の健康状態等に照らすと、英貴は少なくとも六七歳に至るまで五〇年間稼働することが可能であり、その間、生活費等としてその収入の五割の支出が必要であるとするのが相当である。

(2)  以上を基礎として、英貴の逸失利益をライプニツツ式計算方法により年五分の中間利息を控除して死亡時の現価に引直して算定すると金一六一五万二八二〇円となることが明らかである。

(1,769,600円×0.5×18.2559=16,152,820円)

(二)  相続

当事者間に争いのない英貴と原告らの身分関係及び成立に争いのない甲第五号証によれば、原告明同ふき子は英貴の両親で、他に法定相続人はいないから、英貴の右損害賠償請求権につきその相続分に応じ、各金八〇七万六四一〇円をそれぞれ相続したこととなる。

2  原告明の損害 金七二万四二一〇円

(一)  入院関係治療費用 金二二万四二一〇円

(1) 入院治療費 金二一万八〇一〇円

英貴が本件事故により、総合高津中央病院にて昭和五二年五月二八日から翌二九日までの二日間入院加療をうけたことは当事者間に争いがなく、原本の存在及びその成立に争いのない甲第三号証の三によれば、その治療費金二一万八〇一〇円を要したことが認められるところ、弁論の全趣旨によれば、右は原告明に生じた損害と認められる。

(2) 入院付添費 金五〇〇〇円

前認定の入院の事実及び成立に争いのない甲第一一号証の二によれば、原告明が入院中の英貴に二日間付添つたことが認められるところ、その間の付添費として一日当り金二五〇〇円を相当とするから、原告明は付添費として合計金五〇〇〇円の損害を被つたことになる。

(3) 入院雑費 金一二〇〇円

前認定の英貴の二日間の入院期間中、雑費の支出を余儀なくされたことは容易に推認しうるところ右雑費は一日あたり金六〇〇円を相当とするから、原告明は合計金一二〇〇円の損害を被つたと認めることができる。

(二)  葬儀費用 金五〇万円

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第四号証の一ないし五によれば、英貴の葬儀が執り行なわれ、直接の葬儀費用金四六万七四二三円の支出がなされたことが認められ、また右にともなう雑費の支出を余儀なくされたことは容易に推認できるところで、右雑費の支出をも加えて原告ら主張の葬儀費用金五〇万円は相当損害額と認めることができる。

3  慰謝料 各金五〇〇万円

本件事故の態様、英貴の年齢、その他諸般の事情を考慮すると、原告らの慰謝料は、それぞれ金五〇〇万円を相当と認める。

四  過失相殺

1  前掲甲第九号証の一ないし三、第一〇号証、第一五号証及び被告本人尋問の結果の一部を総合すると次の事実が認められる。

(一)  本件事故現場は、木月四丁目方面から千年方面に通ずる県道鶴見溝口線(センターラインで木月四丁目方面に向う幅員約五・四メートルの車線と千年方面に向う幅員約五・三メートルの車線に区分されている。)と矢上川方面から下小田中方面に通ずる一般市道(幅員約六・六メートル)とが十字形に交わる交差点内である。最高制限速度は毎時四〇キロメートルで、交差点は信号機による交通整理がなされている。

(二)  被告は加害車を運転し、県道鶴見溝口線を千年方面から木月四丁目方面に向けセンターラインに沿つて時速約四〇キロメートルで進行し、本件交差点を左折しようとして、その手前約二三メートルの地点で左折の合図を出したが加害車を道路左側に寄せることなく、そのまま、約一六メートル直進し本件交差点手前約七メートルの地点で、前方横断歩道付近の歩行者に注意を奪われ左側方の安全を確認しないまま、道路中央部より時速約五キロメートル位の速度で徐行しながら左折を開始したところ、左側方を直進走行していた英貴運転の被害車に加害車左側ドアー付近を衝突させた。英貴はその衝撃により被害車を暴走させ約七メートル左前方のブロツク塀に激突転倒させられ、前記傷害をうけた。

以上のとおりである。被告本人尋問の結果中右認定に反する供述部分は措信することができず、右認定を覆すに足りる的確な証拠はない。

右認定の事故態様からすれば、被告は、加害車を運転し本件交差点で左折しようとするに際してはあらかじめできるだけ道路の左端に寄り交差点の側端に沿つて通行しなければならないのにかかわらず、これを怠つて大廻りで左折し、しかもこのような方法で左折しながら左側方の安全を確認しなかつた過失があり、本件事故はこの過失によつて発生したものであるといわねばならない。

しかし、成立に争いのない甲第一一、第一二号証によると、英貴運転の被害車は英貴が同年五月初頃、金七万円で買求めたホンダZ五〇cc通称「モンキー」という中古の第二種原動機付自転車を、ハンドルを低くし、サドルをとりのぞき、改造した安全性の高くない車両であつて、英貴は無免許でこのような被害車を運転し本件事故に遭遇したもので、又、当時、ヘルメツトをかぶつていなかつた事実が認められ、これらの事実が本件事故の被害を重大な結果にしたことを否定することはできず、英貴に本件事故の結果を拡大した過失があるとすることもやむを得ないといえる。右の双方の過失内容を比較検討すると、本件事故に対する過失割合は英貴の過失が三〇パーセント、被告の過失が七〇パーセントとするのが相当である。

2  そして、英貴の過失は被害者側の過失と扱うのが相当であるから、原告らの損害を算定するに当つて右同一割合により過失相殺をすべきである。

3  原告らの各損害額につき、右割合に従い過失相殺をすると、原告明の損害は金一〇〇一万〇四三四円、原告ふき子の損害は金九一五万三四八七円となる。

五  損害の填補

請求原因4項及び抗弁1項の各事実は当事者間に争いないが、香典は損失を填補するものではないから、損害額から差し引くべきものではない。従つて、香典を除く填補後の残余の損害は原告明金二二九万三七七四円、原告ふき子金一六四万九八三七円となる。

六  弁護士費用

本件訴訟の経過、認容額その他諸般の事情を考慮すると、被告において負担すべき弁護士費用は原告明につき金三六万円をもつて相当とする。

七  結論

よつて、原告らの本訴請求は、被告に対し、原告明が金二六五万三七七四円と内金二二九万三七七四円につき訴状送達の日の翌日である昭和五三年一月三一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、原告ふき子が金一六四万九八三七円とこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五三年一月三一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払いを求める部分につき理由があるから、右限度でこれを認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 高瀬秀雄)

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